2007年08月12日

記念すべき日に

U君。
人一倍努力家で、謙虚な君はそのまま自分の力で合格しますよ。不安がるために使う時間は実に無駄です。受験テクニックの悪魔がきみにいろいろささやくだろうが、すべて無視しなさい。

F君。
急にやる気を出した君を、僕は個人的感情のみから応援したかった。例のテキストは君に向けて書いたものといってもかまわない。君にとってあの志望校は自立への第一歩だ。学歴なんてかすんでしまうほどの大きな価値のあるチャレンジになるはずです。やさしくて、コミュニケーションが上手な君のことを、世間はもみくちゃにするでしょう。そこで磨かれて、いい男になってください。

M君。
初めて英語の読み方を指導したときのキラキラした眼が忘れられません。アレを聞いてうんざりするかキラキラするかで勝負が決まるんだ。まだ分からないことは多いと思うけど、あの時聞いたことに必ず立ち返って、考え抜いてください。

Mさん。
一度も休まずに、一番前の席で熱心に授業を聴いてくれました。週一度の授業じゃ正直言って足りないところもあるはずなんだ。これからだったのにね。でも教えるべきことはほとんど語りつくしてあるんだよ。あとは応用。簡単なルールを、複雑な構文に当てはめるだけだ。きっとできる。

Y君。
君も熱心な生徒だった。いまどき珍しい非おしゃれ体育会系で、難しい質問にもまっすぐに打ちかかってくる姿勢がすばらしかった。ここ難しいだろうな、ってことろを百発百中で間違えてくるのには笑ったが、たった一言の解説ですべてを理解する君のアタマには脱帽しました。最後まで部活やりぬけよ。君のアタマなら3年の8月からで十分だ。

Nさん。
だぶんお嬢さん育ちなあなたは、やや野獣系な僕とはあんまり合わないかな、と思ってました。でも最近になってようやく質問なんかに来てくれるようになって、そのとき君のノートを見ると僕の授業が生かされているのがわかってとてもうれしかったです。その調子でがんばれ。正確に読めさえすれば、テクニックなんかいらないから。

H君。
あの難しいテキストを1ヶ月ほどで終えてしまったのは、ひとえに君の予習がすばらしかったからです。あとは良質なテキストを選んで、いつも1対1でやって時のことを思い出しながら自学自習するんだ。君にはすでにその力がある。決して基本をおろそかにしないように。
な、簡単だろ、英語なんて。



…もう、きりがない。
たくさんの生徒たち、developingな僕に付き合ってくれて、どうもありがとう。

ほんとになあ。これからなのになあ。

いっぱい伝えたいことがあった。僕自身まだdevelopする余地がたくさんあって、受験後半の企画を考えるだけで胸が躍ってた。
基本を伝えて、その応用を示す。僕の仕事はそれに尽きるんだ。面白くある必要なんかない。そんなことより、いままで暗号にしか見えなかった英語が、あたかも日本語を読むときのように、具体的で明確な意味を伴って君の眼前に現れる。これに勝る面白さなんか存在しない。このことを僕は伝えたつもりだ。

その後は君が自分でやるべきこと。君たちがそれを実行するのを見守るのは、この仕事に従事するものの特権だ。

いや、特権だったはずだ。

もはやそれも叶わない、なんてことが実際に起きようとは夢にも思わなかったよ。

むしろ、そんな君たちの事を忘れようにも忘れられないのは、この仕事に従事するものの宿命だ、というべきだろうか。

忘れやしない。忘れられないからだ。

僕は、君たちが来春、英文を完璧に読解して、必ず栄冠を勝ち取ると確信している。

ありがとう。
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2007年07月18日

めずらしい男子

高校3年生のK君。この地域では有数の進学校の生徒である彼は、最後まで部活をやりぬき、ようやく最近になって受験に本腰を入れるようになった。
もともとデキがいいのか、僕のうるさい文法議論にもついてくるようになった。
最近の男子学生は大きく2通りに分かれる。明るいか暗いかだ。後者は表情すらなく、何を考えているかさっぱり読めない。誘い笑いにも反応せず、顔面括約筋が退化してしまったかのようだ。

K君は前者だ。
明るいのをさらに2つに分ける。ハキハキした好青年か、女にもてることしか考えない歩く精子だ。

K君は前者だ。体育会でしっかり鍛えた背筋をピンと伸ばし、はっきり人の目を見て話す。当たり前だけど、そんな高校生は、少なくともウチでは珍しい部類に入る。

ウチの個別指導は、一つ一つコンパートメントで仕切られているわけではなく、普通のサイズの教室でめいめいがワイワイやる。
隣近所の声なんか丸聞こえだ。

彼には僕が作った『ムズ文テクスト』ってのを渡してある。これはいつだったか暇に任せて、構文が複雑な文ばかり集めたものだ。ある程度文法が分かっている人にしか渡さない。そうでなければ英語嫌いになってしまうからだ。

先週、彼のデキはとてもひどかった。
予習も適当だし、時間かけて文法的に推論すべきところを単純に質問してきた。

「志望校に入れるかどうかというようなチンケな問題じゃない。問題に臨み、こんな半端なところで退却するんなら、今すぐ金玉切って捨てろ。」

みんなに聞こえるのを承知で、ややきついことを言った。

同じ場所に、K君と同じ学校の2年生がいた。
隅々までオシャレして、ミニスカートで、話し方もわざと頼りなげなトーンを作る、よくあるタイプの「かわいい」女子だ。
教室の隅で、驚いたような顔をしてこっちを見ていた。目が合うと、泣きそうな顔になった。

K君に惚れてんのかな? と思った。

今日、1週間ぶりにK君をみると、先週とは別人のようなすばらしい予習っぷりだった。
完答には程遠いが、今の彼なら上出来だ。

僕は彼を讃えた。寿いだ。みんなに聞こえてしまうがかまわないと思った。

先週と同じ場所に例の女子がいて、また目が合った。すごくうれしそうな顔で笑っていた。
僕も笑顔を返し、軽く「よっ」みたいな挨拶をした。
K君はそれに気づき、彼女と目が合った。彼女はすばやくペコッと頭を下げた。

K君はあごをヒョイっとしゃくっただけですぐに英文に向き直った。

僕は机の上の紙に「冷たいな」と書いた。
K君は「女うざいっす」と返した。

おお…

そうなんだ。男はある時期女が嫌いになるもんだ。猫もシャクシも女にもてたいみたいに言うけれど、あれはなんというか、空気を読んでそう言ってるだけなんじゃないのかな。社交界の掟というか。めんどくさいけど、まあもてたいって言っておけば無難だし、みたいな。

もてたいかぁ?素朴すぎるけど、そう思う。
僕は付き合いは極めて悪いほうだし、思ったことをちゃんと言わなきゃバチが当たる、ってのは変だけど、なんというか思ったとおりに口を開くのは一種の宗教的信条みたいなもんだから、社交辞令のボキャブラリーはあまり豊富ではない。
そのせいか女性から、特に新入社員の若い女性からは冷たいとか怖いとか言われる。
僕はごくニュートラルの対応しているだけだから、こういうのを冷たいとか何とか言う奴は、多分いままで相当に甘やかされてきたんだろうなと思う。
同時に、本心でコミュニケーションをとった経験が乏しいのかもな、とも思ってしまう。

今日のK君を見て、久しぶりに波長の合う男を見た気になった。
うむ、それでいい。それで君を煙たがる奴は放っておけばいいんだ。

来週も気合入れてこいよな。
ラベル: 受験生
posted by vice_versa at 03:17| Comment(0) | TrackBack(0) | on the job | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月16日

お金を取るのが予備校だから。

仕事終わって、溜まり場になってる非常階段で数学の講師と話していると、H君の話題になった。

H君はいわゆる不登校だが、一般的な不登校生徒のイメージとはずいぶんかけ離れた、そういう意味でやや変わった生徒だ。
礼儀正しくて、目標をしっかり持っていて、明るくて、知的だ。
僕は以前フリースクールで働いていたことがあったから、不登校生徒にはこのような変わり者がしばしばいることを体験して知っている。

しかし数学講師のAさんはややびっくりしたついでに興味を持ってしまい、ずいぶんH君に肩入れしているようだ。
Aさんは、経歴こそよく分からないが、とにかく熱心を絵にかいたような人。能力もあって、現状理数系講師が不足しているため、管理職はAさんのわがままをかなりの程度容認している。辞められたら困るからね。

で、そのわがままというのが、ようするに決められたことをやったら、そとは好きにやらせてくれ、ってことらしい。
ここの「好きなこと」というのは、「気に入った生徒に、付きっ切りで指導する」ということ。報酬はいらないから、だそうだ。

管理者としては断る理由はないわけで。

ウチの弱小予備校は契約の基本として基本教科の一斉授業があり、それに付随する形でいろんなオプションを用意している。たとえば夏期講習とか。
そのオプションの中に「個別指導」がある。1時間いくら、みたいにしてあくまで通常契約以外にお金を頂いて契約していただく。

講師のAさんは、とにかく好きにやっていいわけだから、もうH君につきっきりなわけ。
「今日は4時間やりました!もう教えた範囲ならばセンター満点ですよ、わはは」

うむ。慶賀にたえない。

僕は昨年卒業していったある生徒を思い出しながら聞いていた。

Kさん。母子家庭の女子生徒。ほかの生徒みたいにブランド品なんかもってないし化粧も濃くはないけど、ビンボーくさくならないようにいろいろ努力していたようだ。
僕はこの生徒の担当だったのでしばしば二人で話をする機会があったんだけど、あるとき彼女が個別指導を希望してきた。
僕は担当として契約のことを説明し、およそのコストを出した。
僕ら講師の役目はここまで。生徒からこういう話があった場合は契約担当、早い話が営業職員だけど、そういう部署に報告することになっている。

この話の直前に、母親が倒れて収入がグッと減ってしまったとの話を聞いていたので、生徒にはこれから契約の話をそういう担当の人とすることになるけど、よーく考えてから返事するよう伝えた。

数日後営業マンが「いやあありがとうございました。○○万上がりましたよお」って言ってきた。

お母さんは一体どこからお金を出してきたんだろう。
おしゃべりなお母さんだったから、僕もいろいろ知ってしまっていたので、かなり無理な捻出の仕方だったことは容易に分かった。

彼女は不運もあって第1志望に落ち、滑り止めでも惨敗し、当初予定していもいなかった大学の2次募集を受け、ようやく受験を終えた。
合格の報告にはきてくれた。

馬鹿な僕は聞いた。「そこ行くの?」
彼女は「多分無理」とだけ言った。経済的に無理、と言いいたかったのをギリギリのプライドが止めたようだった。

僕らは「教育産業」とやらで働いているし、何かのアンケートで職業の選択肢にその名があれば躊躇なくそれを選ぶ。
僕らは出所不明のお金であろうと、生徒とその親が差し出したお金を分け合って生活しているわけだ。そういう仕組みだ。

無料サービスはその秩序を壊してしまう。
Aさんの行為は善行だろうが、僕らのルールにはなじまない。

そういう仕事だ。
ラベル: 教育 予備校
posted by vice_versa at 01:50| Comment(0) | TrackBack(0) | on the job | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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